深い山奥にある小さな村で、毎年夏になると恒例の祭り「ばけものおどり」が開催される。 この祭りは、村人たちが仮装をして山中に行き、夜になると踊りながら帰ってくるというものだ。仮装は様々で、妖怪や動物、幽霊など、さまざまな姿に変身する。そして、その姿で踊りながら村に戻ってくるのだ。村人たちは、このおどりが夏の恒例行事として大切にしており、毎年楽しみにしている。 ある年のばけものおどりの夜、村の若者である太郎は、仮装をして村人たちと共に山へと向かった。彼は今年は特に楽しみにしていた。というのも、彼は幼い頃、山で遊んでいるときに不思議な存在に出会ったことがあったからだ。 その存在は、人間の姿をしていたが、どこか異様な雰囲気を持っていた。太郎はその存在に一目惚れし、何度も山へ通い、会いに行っていた。しかし、ある日を境にその存在は現れなくなり、太郎は心の中で彼女を探し続けていた。 太郎はばけものおどりの夜、山で踊りながら彼女を探すことを決意した。彼は仮装をして山の中を歩き回りながら、彼女との思い出を懐かしみながら踊っていた。 すると、太郎の目の前に突如として現れた影。その影は彼女の姿に似ていた。太郎は興奮し、彼女の名前を呼んだ。 しかし、影は太郎の呼びかけに反応せず、不気味な笑みを浮かべながら踊り続けた。太郎は戸惑いながらも、彼女に近づき、手を差し出した。 すると、影は一瞬で太郎の前に現れ、その手を掴んだ。太郎は驚き、彼女の顔を見つめた。しかし、彼女の顔は変わっていた。目は赤く光り、口元には血の跡が付いていた。 太郎は恐怖に震えながらも、彼女が自分の手を引っ張って村に戻ろうとしていることに気づいた。彼は必死に抵抗しようとしたが、彼女の力は強く、太郎を引きずるようにして村へと連れて行った。 村に戻った太郎は、村人たちに助けを求めたが、彼らは太郎の姿を見ても何も言わず、ただ踊り続けていた。彼らの目は空洞で、顔には同じような血の跡が付いていた。 太郎は恐怖に駆られながらも、村の外へ逃げ出した。彼は必死に走り、山を下りていった。すると、彼の前には警察官が立っていた。 太郎はほっと一息つき、助けを求めたが、警察官は太郎を無視し、ただ踊り続けていた。太郎は絶望し、自分が取り残された世界にいるのではないかと思った。 彼は途方に暮れながらも、どこかで彼女を見つけるために必死に逃げ続けた。しかし、彼女の姿はどこにも見当たらず、彼は孤独な闘いを続けることになった。 太郎の心は次第に追い詰められていき、彼は狂気に取り憑かれていった。彼は山中で独りぼっちで踊り続けるようになり、人との接触を拒み、ただ彼女を探し続けた。 そして、ある日、太郎は山中で息絶えていた。彼の姿はかつての村人たちと同じように、血の跡が付いており、空洞な目をしていた。 太郎の死体を発見した人々は、彼が村人たちと同じようにばけものになってしまったのだと噂した。そして、その噂は村の中で広まり、ばけものおどりは以後行われなくなった。 村は静かになり、太郎の姿は忘れ去られていった。しかし、夏の夜になると、時折、村の周りで謎の踊りが聞こえるという噂が立ち始めた。 その踊りは、太郎が彼女と共に踊り続けている姿だと言われている。村人たちはそれを聞く度に、不思議な感覚に襲われるが、彼らはその踊りを見ることはなかった。 村には今もなお、太郎と彼女の存在が残り続けているのだろうか。それは誰にも分からない。ただ、村の周りに響く謎の踊りは、人々にとって永遠の謎となっているのだった。