フォロー

短編小説「心模様10」

長田茉莉は貧しい家庭に生まれ、六人の妹や弟を抱える長女として日々奮闘していた。しかし、彼女には誰にも秘密にしている特異な体質があった。それは、人の心を読むことができるというものだった。 茉莉は人々の心の声が聞こえてくるため、家族や友人たちの苦悩や悩みを嫌というほど感じ取ることができた。兄弟たちが学校でのいじめや友人関係の悩みを抱えていることを知り、茉莉はいつも彼らをサポートしようと努力していた。 しかし、茉莉自身も貧困に苦しむ日々を送っていた。どれだけ頑張ってもお金が貯まらないことを痛感した茉莉は、自分の保険金を使って弟や妹たちを養うことを決意する。彼女は家族には何も言わず、自らの命を絶つ道を選んでしまった。 ある晩、茉莉は一人で悩みながら自殺の準備を進めていた。心には家族への思いや、彼らの幸せを願う気持ちが混じり合っていた。しかし、その時、彼女の心に一つの声が響いた。 「茉莉ちゃん、どこにいるの？」 それは、茉莉の末っ子の妹、小夏の声だった。彼女はいつも明るく元気な性格で、茉莉にとってはかけがえのない存在だった。 茉莉は戸惑いながらも声の主を探し、小夏が自分の部屋のドアの前に立っているのを見つけた。彼女は不安そうな表情を浮かべながら、茉莉に問いかけた。 「茉莉ちゃん、どうして泣いてるの？」 茉莉は驚きながらも笑顔で答えると、小夏の手を握りしめた。 「ごめんね、小夏。お姉ちゃんはただちょっと疲れていただけだよ。」 小夏は茉莉の言葉に安心したように微笑み、ゆっくりと茉莉の腕を引っ張った。 「お姉ちゃん、一緒に寝ようよ。」 茉莉は小夏の優しさに胸が熱くなり、彼女の手を引きながら部屋へと向かった。小夏の寝顔を見ながら、茉莉は自分の考えを改めることに決めた。 「私は家族のために生きるんだ。みんなの幸せのために頑張るんだ。」 茉莉は自殺の計画を断念し、家族のために生きることを決意した。彼女は自分の特異な体質を活かし、家族の悩みや苦しみを察しながら、彼らを支える力を持つことを思い知った。 茉莉は家族のために働き、少しずつ貯金を増やしていった。彼女は家族との絆を深めながら、彼らが笑顔で暮らせるように尽力し続けた。 そして、数年後、茉莉は家族全員が幸せに暮らせるような環境を整えることに成功した。彼女の優しさと強さに触れた家族は、茉莉に感謝の気持ちを伝えた。 「お姉ちゃん、ありがとう。お姉ちゃんがいなかったら、私たちはここまで幸せになれなかったよ。」 小夏の言葉に、茉莉は涙を流しながら笑顔で答えた。 「私がいなくても、君たちはきっと幸せになっていたよ。ただ、私も一緒に幸せになりたかったんだ。」 茉莉の言葉に、家族全員が笑顔で頷いた。彼らは茉莉の強さと愛情に支えられ、幸せな日々を過ごしていた。 茉莉の特異な体質は彼女にとっては苦しみでもあったが、家族を思いやる気持ちを深めるきっかけとなった。彼女は自分自身を受け入れながら、家族のために生きることを選んだのだった。