1. 宇宙の孤独 宇宙空間は静寂と暗闇に満ちていた。無数の星々が遠くで瞬き、冷たい光を放っている。その光景は美しい反面、圧倒的な孤独感をテルテルに押し付けていた。 船外作業中の事故で宇宙船から放り出され、今は何もない虚空を漂っている。テルテルの宇宙服の中で浅い呼吸音が響き、酸素残量を示すディスプレイの数字がじわじわと減っていく。 「こんな終わり方なんて、馬鹿げてる…。」 かすれた声がヘルメットの中に反響する。 彼は研究チームの技術者だった。科学の進歩のために、自分を犠牲にする覚悟を持って宇宙へと飛び立ったはずだった。しかし、事故が起きた瞬間、自分がどれほど生に執着しているかを知った。 すると、胸の奥で声が聞こえた。 「お前はもう逃げられない。」 その声は、低く冷たかった。かつて彼を救った狂人の声が、今再び蘇ったのだ。 2. 狂人の誕生 テルテルがこの声を初めて聞いたのは、幼少期だった。過酷な環境で育ち、家族や友人を失うたびに、心の中に孤独が膨らんだ。狂人の声は彼の弱さを埋めるために現れ、やがて彼の中で強大な存在となった。 「またお前か…。」テルテルは疲れ切った声で答えた。 「お前の選択は一つだ――見ろ、自分の現実を。」 目を閉じても、その声は消えなかった。むしろ、暗闇の中で鮮明になるばかりだ。 3. 希望の兆し 宇宙空間の漂流は、時間の感覚すら奪い取る。テルテルはふと視界の端に微かな光を見つけた。それは細いワイヤーのように見えた。 「なんだ…?」 彼は手を伸ばした。冷たく硬い感触が指先に伝わる。宇宙船の残骸だ。 その瞬間、胸の奥で微かな炎が灯るのを感じた。 「出口があるかもしれない…。」テルテルは小さく呟いた。 狂人の声が冷たく笑う。 「そんなものは幻想だ。」 それでもテルテルは希望を手放さなかった。 4. 葛藤と分裂 漂流の中で、テルテルの心はさらに深く分裂していった。狂人の声が、今や目の前で具現化するかのように明瞭になった。 「お前は私だ。お前の弱さが私を生み出した。」 「そんなこと…認めるもんか!」 狂人の声は鋭く響いた。 「お前は私なしで生きられると思っているのか?」 テルテルは深く息を吸い込んだ。 「君がいなくても、進むことはできる。」 狂人は虚ろな声で呟いた。 「お前はもう終わりだ。だが、私もお前と一緒に終わるつもりはない。」 5. 統合への決意 狂人の声は冷たく、それでもどこか哀しみを帯びていた。 「絶望的な時だが?」 「気づき始める。」テルテルの声はかすかに震えながらも強く響く。 「前に進まなくちゃ。」 狂人は低く唸るように答えた。 「うん。」 テルテルは全力でワイヤーをたぐり寄せ、宇宙船の方へと向かう。狂人の声は徐々に静かになり、彼の中に溶け込んでいく。 6. わ静けさと希望 宇宙船のハッチが開き、テルテルは冷え切った体を引きずりながら中に入った。宇宙服を脱ぎ捨て、深く息を吐く。 狂人の声はもう聞こえない。しかし、彼の中で確かにその存在を感じていた。 「君は私の中にいる。 まだ生きている。」 テルテルはそっと呟いた。 静かな宇宙の中で、彼は再び生きる力を感じ始める。決して消えない希望の炎を胸に抱きながら。