世嫌症。それは、二十歳前後の若者たちを襲う不治の病だった。この病気にかかった者たちは、突如として世界の全てを本能的に嫌うようになる。主人公である世宮愛香も、二十歳の時にこの病気を発症してしまった。 愛香は普通の少女だった。幼い頃から明るく、人懐っこい性格で、周りからはいつも笑顔でいる彼女を誰もが愛していた。しかし、病気が彼女を襲った瞬間から、彼女の心は一変してしまった。 病院に入院してからも、愛香の病状は改善することはなかった。医師たちは様々な治療法を試みたが、どれも効果はなかった。政府もこの病気に対しては手をこまねいておらず、安楽死を許可していた。 ある日、愛香は病室で一人座り込んでいた。窓の外に広がる景色を見つめながら、彼女は深い悲しみに包まれていた。彼女は自分の心が世界を嫌いになってしまったことを悔やんでいた。 「なぜ私だけがこんな病気を持ってしまったんだろう。なぜ私の心はこんなにも世界を嫌うようになったんだろう」 愛香の心には、かつての明るさや笑顔はなくなっていた。彼女は自分の心が持っていた何かを取り戻すことができるのか、絶望に苛まれていた。 その夜、愛香は看護師に呼ばれて医師のところへ連れて行かれた。医師は彼女に対して、安楽死を選ぶことを勧めた。彼らは彼女の苦しみを理解し、彼女が自ら選ぶ道を尊重していた。 愛香は迷いながらも、医師の言葉に耳を傾けた。彼女は苦しい日々から解放されることを望んでいた。しかし、一つだけ彼女は確信していたことがあった。 「私の心が世界を嫌うようになる前の、本当の私はきっとここにいるはず」 愛香は医師に頭を下げながら、安楽死を選ぶことを告げた。彼女の心は苦しみに満ちていたが、それでもなお、彼女は自分の本当の姿を取り戻すために決断した。 次の日、愛香は病室で看護師たちに見守られながら息を引き取った。彼女の苦しみは終わった。しかし、彼女の心が世界を嫌うようになる前の、明るく笑顔でいた彼女は、誰かの心の中で生き続けているのだろうか。 この物語は、世嫌症に苦しむ少女・世宮愛香の生と死を描いたものである。彼女の心が持っていた何かがどこかで生き続けているのか、それとも彼女の心は完全に闇に包まれてしまったのか。それは、誰にも分からない謎である。 愛香の物語は終わったが、彼女の苦しみが誰かの心に触れ、何かを変えることがあるのかもしれない。それは、愛香が望んでいた未来のために、誰かが彼女の心を受け継ぐことでしか実現できないかもしれない。 愛香の選んだ道は、彼女自身にとって正しかったのかもしれない。しかし、この世でただ一人彼女を本当の自分として受け入れた人物がいたならば、彼らの心には深い喪失感が残るだろう。それが愛しい人間の心情であることを、この物語は描き出している。