隣町の古い自販機は釣り銭が出ない。しかし、ただの故障ではない。この自販機には、ある特別な仕掛けが施されていた。 ある日の夕方、青年のタクヤは喉の渇きを癒すためにその自販機に立ち寄った。手持ちの千円札を入れて冷たい炭酸飲料を選んだ。ボタンを押すと、飲み物は出てきたが、お釣りは出てこなかった。大金を入れたタクヤは少し不機嫌になり自販機を揺すったが缶が擦れる音がするだけで変化はなかった。仕方なくその場を離れた。 それから数日後、一時的な不調を疑ったタクヤは再びその自販機の前に立ち、今度は500円玉を入れてみた。やはり、飲み物は出てきたが、お釣りは出てこなかった。彼は苛立ちを感じながらも、その場を後にした。 その夜、タクヤは友人のケンにその話をした。「あの自販機、釣り銭が出ないんだよ。もう何度も試したけど、全然だめだ。」 ケンは眉をひそめた。「そんな話は初めて聞いたな。ちょっと面白そうだから、一緒に見に行こうぜ。」 翌日、タクヤとケンは再びその自販機の前に立った。ケンも試しに硬貨を入れてみたが、やはり釣り銭は出てこなかった。 「確かにおかしいな」釣り銭切れ表示はされていない。ケンは首をかしげた。「でも、なんで釣り銭が出ないんだろう?」 その時、自販機の前で困っている子供を見かけた。子供は飲み物を買いたいが、お金が足りないようだった。タクヤは自分の財布から100円玉を取り出し、子供に渡した。 「これで買いなさい」とタクヤは優しく言った。 子供がお礼を言って自販機で飲み物を買うと、驚いたことに釣り銭が出てきた。タクヤとケンはその光景を見て驚いた。 「もしかして、心優しい行動をしたから釣り銭が出るのか?」とケンは推測した。 タクヤももう一度試してみることにした。自販機の前で困っていた別の人を見つけ、その人に自分の小銭を渡して助けた後、自分でもう一度自販機に硬貨を入れてみた。すると、今度は釣り銭が出てきたのだ。 「やっぱりそういうことか」とケンはうなずいた。「この自販機は、心優しい行動をした人にだけ釣り銭を出すんだ。」 秘密が知れたタクヤは嬉しくなってそのまま近くの古びた駄菓子屋に向かい、店主の老婦人にその話をした。 老婦人は微笑んで言った。「この自販機は、私の亡き夫が設置したものなんです。彼はいつも『人は助け合うべきだ』と言っていました。だから、この自販機は心優しい人にだけ釣り銭を出すように設定されています。」 その後、タクヤとケンは自販機の前に「お釣りが必要な方は心を込めて」と書かれた小さな看板を立てた。そして古びた自販機は町のシンボルとなった。