仮面顔症候群。それは生まれつきの不治の病気だ。人一人に対して対応を決めて、まるで仮面のようにコロコロと表情を変えるようにするせいで仮面顔症候群と言われている。僕、綾瀬結城もこの病気にかかっている。 この病気にかかっているからか、中学校の演劇部から声がかかった。彼らは僕の特異な表情の変化に興味津々だった。最初は戸惑ったが、何となく舞台の上で仮面を被ることに抵抗がなかった。 役者としての経験を積むうちに、僕は人気な存在となっていった。人々は僕の不思議な表情の変化に魅了され、舞台の上での演技を楽しんでくれた。仮面顔症候群が、僕の人生を彩りのいいものに変えていった。 でも、時折、心の中で淡い悲しみが漂うこともある。僕が演じる役は、人々に笑顔を届けることが使命だと思っている。でも、僕自身は本当の笑顔を持つことができない。仮面の裏に隠れた本当の僕を知る者はひとりもいない。 ある日、舞台の上で新たな役を演じることになった。それは、喜劇役だった。役柄は明るく元気な少年で、周りの人々を笑わせることが得意なキャラクターだ。役作りのために、様々な笑顔を研究した。でも、どんなに頑張っても、本物の笑顔を作ることはできなかった。 舞台の幕が上がり、僕は演じる役になりきる。でも、心の中では悲しみが溢れていた。演じる役とは裏腹に、心は空っぽで、笑顔は作り笑いにしかならなかった。 終演後、演劇部の先輩が僕の元にやってきた。彼女は僕の演技を褒めてくれたが、その言葉には少しの違和感があった。彼女は僕の表情の変化を楽しんでくれているのか、それともただ演技を褒めているだけなのか。 「結城くん、君の演技は本当に素晴らしいよ。でも、君の笑顔を見ていると、なんだか寂しくなるんだ。」 彼女の言葉に、僕は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女は僕の本当の笑顔を見抜いていたのだ。そして、その寂しさを感じ取ってくれていた。 その瞬間、僕は自分自身に気づいた。仮面顔症候群が僕を守るために作り出した仮面は、本当の笑顔を奪っていたのだ。僕は自分の心を見つめ直し、仮面を取ることを決意した。 次の舞台で、僕は本当の笑顔を届けるために演じた。仮面を被ることなく、素直な気持ちを込めて演じた。観客からは驚きの声が上がり、拍手が鳴り響いた。 終演後、僕は演劇部の先輩に感謝の気持ちを伝えた。「ありがとう、君の言葉が僕の心を救ってくれたんだ。」 先輩は微笑んで言った。「君の演技は、誰かを救うことができる力を持っているんだ。だから、自分自身も救えるんだよ。」 仮面顔症候群という病気にかかっていることは、僕の一部だ。でも、それだけではない。僕は役者としての力を信じ、本当の笑顔を取り戻していく。そして、自分自身を救いながら、人々に幸せを届けることができるのだと思った。 これからも、僕は舞台の上で笑顔を届ける役者として、輝き続ける。仮面顔症候群と共に生きることが、僕の使命なのだから。